「引き返すことも、日を改めることも出来るが。どうしたい?」
リリアはオルキスの手をきゅっと握りしめ、それから首を横に振る。
「私は中に入りたいです」
自分の都合でこれ以上オルキスを振り回したくない。
そんな強い思いから、リリアはこのまま時計塔の中に入ることを選択したのだが、オルキスを掴んだ手がどうしても震えてしまう。
母が飛び降りたと言われている場所に足を踏み入れることに、リリアが全く怖さを感じていないかと言ったら嘘になるからだ。
オルキスはリリアの手を握り返し、力強く頷いた。
二人が時計塔の入口へと近づいていくと、そこで待っていた塔の守り人の男がオルキスへと一礼し、扉を開ける。
その男に「あとでアレフも来る」と伝えたのち、オルキスはリリアの手を引きながら時計塔の内部へと入っていく。
内部はリリアが想像していたよりもずっと広く、明かり取りの小窓はあれどとても薄暗かった。
「足元に気をつけて」
オルキスは一度足を止め、歩きやすいようにとリリアの手をしっかりと片手で支え持つ。
遥か高い位置に天井がかろうじて見えている。それを支えるいくつかの太い柱と筋交いの横を、勝手知ったる足取りで進むオルキスに手を引かれながら、リリアは恐々と歩を進めていく。


