「この人が……ソラナさん」
思いがけず出会うことが出来た母親の姿を前に、リリアは言葉を失い立ち尽くす。
記憶の中にこの女性はいないというのに、穏やかに微笑む顔を見つめているだけで、胸がいっぱいになり涙が込み上げてくる。
「……リリア」
そしてオルキスもまた、はっきりと分からずとも、そんなリリアの様子から何かの予感を得ていた。
「もしかしたら……あの老婆の言う通り、この中には入らない方が良いかもしれないな」
「……ど、どうして?」
時計塔にのぼることはテガナ村にいた時からの約束だ。
こうして目の前までやってきた今、オルキスから飛び出したまさかの言葉に、リリアは震える声で理由を問う。
オルキスは言葉を探すように視線を落とした。しかしすぐに心を決めたのか「はっきり言うが」と前置きをしてから、真っ直ぐにリリアを見た。
「彼女は叶わぬ恋に心を痛めてこの時計塔から飛び降りたのだと、俺は聞いている」
「……飛び降りた?」
「あぁ。この石像は女性の魂を慰めるために建てられたものだ」
リリアは驚きと共に時計塔を見上げたあと、信じられない思いで微笑みを浮かべる母の石像へと視線を落とす。


