「ソラナ様」


皮ばった手で老婆はリリアに触れようとしたが、その手が届くよりも先に、オルキスがリリアを引き寄せる。

そしてリリアの前にアレフが進み出たことで、速やかに接触は阻止された。


「彼女はソラナではない。リリアと言う」


オルキスに厳しく言い放たれると、老婆は大きく目を見張る。しかしゆるりと首を振り、「ソラナ様」と再びその名を口にする。


老婆だけでなく、周囲に出来た人垣にもオルキスが神経を尖らせていると、そこから「お婆ちゃん!」と悲鳴のような叫びがあがり、人の隙間を割ってエプロン姿の女性が飛び出してきた。

そして老婆が誰の歩みを邪魔しているのかを知ると、女性は瞬時に顔を青ざめさせた。


「オルキス様、申し訳ございません! どうかお許しください!」


リリアに話しかけたくて仕方がない老婆を女性は必死に下がらせたのち、許しを乞うように路面に額をつけ平伏する。

老婆はもうろくしていても危害を加えるつもりはないと判断したのか、オルキスは短剣からすっと手を引いて警戒を解くと、「行くぞ」とリリアに声をかけ、共にその場を脱しようとする。


「あぁ、ソラナ様! 行ってはなりません! 時計塔だけには! ソラナ様!」