行き交う馬車を目で追い首を傾げたアレフとは違い、オルキスは白を基調とした馬車が角を曲がり姿を消すその瞬間まで、視線を逸らさなかった。
馬車の中からこちらを見ていた本人と目があったため、あの中にセルジェルがいたのは間違いない。
しかしセルジェルの朝食は遅い。いつもなら今ぐらいの時間に食事を終えてエルシリアや侍女たちとのんびり会話を楽しんでいるころだろう。
頭の中に普段の光景が浮かびながらも、きっと街に出る用事があったのだろうと考えを改めようと試みたが、馬車の進み行く方角から城へと戻って行ったように思えてしまい、もしかしたら自分たちのことが気になって追いかけてきたのかと、どうしても勘ぐってしまう。
だとするなら「暇なヤツだ」とオルキスはため息をつき、リリアへと視線を戻す。
と同時に、素早く足が地を蹴った。
眼前にそびえ立つ時計塔の迫力に感激しているリリアの元へと、ひとりの老婆がふらりと近づいていく。
考えるよりも先にオルキスの手は腰の幅広のベルトから下げている短剣へと伸びていく。
「……あぁ……あぁ」と呻くような声を発しながら近づいてくる老婆の存在にリリアも気が付き、怯えるように身体を強張らせた。


