「王の違う未来があるように、実は、花嫁の違う未来も存在しておる。強い輝きを持つ欠片は、こちらも二つ」

「……二つ」


厳しい声でオルキスが繰り返すと、ボンダナも真剣な面持ちでこくりと頷き返した。


「片方は、そなたが人間らしい顔で幸せそうに笑っている。主君が幸せを分け与えておるからか、民も生き生きとし、国は活気で溢れておる。出来ればわたしは、この目でそちらの未来を見てみたい」


黙って話を聞いていたアレフが「俺もそっちが良いな」と独り言を言う。

ちょっぴり肩を竦めてみせたアレフと目と目を合わせてから、オルキスは再びボンダナへと視線を戻した。


「責任重大だな。花嫁にもっと分かりやすい目印はないのか? お前の頭の中を見せてもらえれば一番簡単なんだが」

「目印? そんなの既に伝えてある。金色の髪に翡翠の……」

「あぁ。それは何人も見た。悪いが俺にはみんな同じにしか見えなかった」


不貞腐れた顔をするオルキスに、ボンダナが笑い声をあげる。


「心配は無用だ。会えばすぐに分かる。頭じゃない。心が気付く」


簡単なことのように言い切ったあと、ボンダナは表情を元に戻し、厳かに話を続けた。


「そなたは常に、嫉妬や妬み、羨望や欲望、様々な感情と隣り合わせで生きておる。娘を手元に置くことは、彼女もまた様々な思惑の渦にのみ込まれていくということ。無力ゆえに……大きな力に抗うことも出来ぬまま、娘は命を落とすだろう」