あのとき老婆は確かに、リリアを拝んで「ソラナ様」と言った。リリアの母の名を口にしたのだ。

名前は出なかったが、王様もリリアにソラナを重ね見てしまったがために、あのように深く驚いたと言うのなら納得がいく。

いったい母ソラナはどのような女性だったのか。

湧き上がってきた疑問に確実に答えられる人物が、同じ室内にいる。

聞いてみたい。しかしこれまで母に関する話をしたがらなかった父だ。聞いたところで答えてもらえるかどうかは分からない。けれどやはり……知りたい。

頭の中でぐるぐると思いを巡らせていると、コンコンと軽やかな音を立てて戸が叩かれた。


「失礼いたします」


室内に入ってきたのは、リリアより少しだけ幼さを感じさせる一人の娘だった。

すぐさま本を閉じ、神妙な面持ちで長椅子から立ち上がったセドマへと笑いかけたのち、彼女はすぐにリリアへと視線を定め、満面の笑みを浮かべて見せた。


「兄が連れ帰った花嫁というのは、あなたね! 本当に予言通り!」


その言葉を聞いて慌てて姿勢を正したリリアへと、娘は真っ直ぐに歩み寄っていく。

目の前で足を止めると、観察するようにじっとリリアの顔を見つめた。