熟恋ージュクコイー

ふと手元の時計を見ると、22時半。

もうそろそろ帰らないとな…と心のどこかで、ちょっと残念に思う自分がいることに驚いた。

田中さんは時計を見た私を見ると

『遅くまでお付き合い頂きありがとうございます。そろそろ出ましょうか?』

とお店のお姉さんにお会計をお願いした。

私も払おうと財布を出すと、

『今日は私がお誘いしたので…』

と断られてしまった。

申し訳ない気持ちがあったけど…
お言葉に甘えて、ご馳走になることにした。

お店を出て、駅まで一緒に歩いていると、

『真野さん、私は久しぶりに心から楽しい時間を過ごしました。またお誘いしたいのですが、大丈夫ですか?』

と、私を覗き込みながら言われた。

「こちらこそ、楽しく過ごさせてもらいました。ご馳走になってしまい、ありがとうございました。もちろん、お互いに時間が合えばまたぜひ一緒に飲みましょう」

それを聞いた田中さん、突然立ち止まってガッツポーズをした。

背の高いおじさんが、道端で突然のガッツポーズ。笑

正直驚いて言葉がなかったが、あまりに嬉しそうにしている姿を見て、可愛らしいな、と思った。

歩き出そうとすると、田中さんは私の腕を引いた。振り返ると柔らかい表情でこう言った。

『真野さん、私がお誘いするのは、あなたの事をもっと知りたいのと、あなたと一緒にいる時間が欲しいからです。あなたとの時間は、居心地が良い。こんな事、本当に久しぶりで、自分でも暴走しているのではないかと、恥ずかしいですが…』