2人とも箸を置いて、じっと話を聞いている。

『だからといって、お父さんが嫌いになったとか、そんなことじゃないの。お父さんの事は、私が死ぬまでずっと大切な人よ。こんなに可愛い子供たちがいるんだもん。
心の中にはずっとずっと、生き続けてるのよ。
それは、どんなに好きな人ができたとしても、変わらない。
ただ、今を生きるって、何なんだろうと思ったの。死んだ人を追いかけて、毎日一方的に話しかけて、時には寂しくて泣きたくなって。
お母さん、あと30年もそれを続けても、絶対にお父さんには会えないんだもん。
前を向いて、少し進んでみようかと思える人に出会えたのよ。
だからってすぐに結婚したいとかそんなんじゃなく…
ただ一緒にいるとすごく楽しいから、お付き合いしてみようと思ったの。
あなたたちには、ちゃんと話してから、と思っていたから。』

無言。
時計の針の音だけが響く。