「いいですね!

わたし、初めてパエリアを食べます!」

そう言った斎藤ゆめのはとても嬉しそうだった。

「ハハ、そうか」

一緒になって笑う俺だったが、心はその事実に気づいたことに戸惑っていた。

…気づいてしまった。

自分が彼女を特別視していることに気づいてしまった。

ここにきて、俺は彼女に抱いている自分の気持ちに気づいてしまった。

――斎藤ゆめのに恋をしている

彼女とはお互いの利害関係が一致したうえでの結婚だったはずだ。

職も家も何もかもを失った彼女に、俺は妻を演じて欲しいと頼んだ。

それに対して彼女は首を縦に振ってうなずいて、契約結婚を結んだのだ。

形だけの夫婦関係だから、そこに愛なんてなかったはずだ。

なのに…いつの間にか斎藤ゆめのに恋をしてしまった自分に、俺は戸惑うことしかできなかった。