笹原先生の素性など、高校三年間で知る機会も無かった私と真菜は、一様に目を丸くする。


「正確には理事長の孫、だったかな。あの外見に加えてゆくゆくはこの学園をものにするセレブなスペックだからさ、更に人気に拍車がかかっちゃってるってわけ!」


梨沙ちゃんは放心する私たちの目の前で、どこか得意顔で言った。


「へ〜、知らなかった……」


真菜が顎に手をあてる。


「強欲な女子高生のリサーチ力ってすごいんだよ。細っこい煙がちょっと立っただけで一気に調査してなにもかも暴いちゃうんだから」
「えっ、怖! けど、そうなれば噂もすぐに広まるだろうしね。っていうかもうこの学園、笹原がいれば安泰じゃん。笹原目当てで入学する子も多そうだし、ウハウハ儲かっちゃうでしょうね。そしてまた猫耳女子に追われるという光景が繰り返されるのかぁ……」


なんだかよくわからないけどどうやら同情されたようで、真菜は私の肩をポンと叩き、鷹揚な顔でうんうんと頷いた。
そんな手が届かない存在に片思いするなんて不毛だね、とでも言いたげに。

私はムッとして、真菜を横目で睨んではみたけれど……。

私も、知らなかった。
あるときは気だるげな美術教師、そしてあるときは眠れる昇降口の王子様、な顔があることは知ってたけど、まさか学園の跡取り? としての立場でもあったなんて。

ここって確か、高校と大学の他にも幼稚園とか老人ホームとか、いろいろ手広くやってたような。
部活動も盛んで割と全国的にも有名だし。

あ。部活、と言えば……。


『まあ、特権。』


あの合宿所に入ったとき、そんなこと言ってたっけ。
もしかしてあれって、跡取りという立場を悪用してこっそり使ってた的なやつだったんじゃ……。


「まあ、実際笹原先生のお陰で受験希望者は増加してるみたいだけど、これからは、うーん……どうなんだろうね?」


美術室がある二階に続く階段を上り、梨沙ちゃんが顎に手をあてて唸った。
なんだか釈然としないような表情で。