緩いシルエットの白いカットソーに暖かそうなグレーのカーディガンを羽織ったお休みスタイルの先生は、黒縁のメガネをかけて雑誌を開く。

無粋を承知で盗み見たら、美術系の雑誌で主に英語で書かれていて、オシャレすぎてなんだかもう次元が違うなって思っちゃった。

今日も醸し出される、カッコいいオーラ。
また来てくれた……嬉しい。

智兄が先生のコーヒーを淹れている間に、町内会の集まりで来ていた常連のおばちゃん達が、お会計をしにぞろぞろとレジにやって来た。


「ご馳走さまー! やっぱりここのブレンドは格別ね」
「ありがとうございます! お会計は別々でよろしいですか?」
「ええ」


ひとりひとりお代を頂いていくと、最後の常連のお客さんが私のネームプレートを見て、おや? という反応をした。


「智樹くん、ずいぶん若い奥さんもらったのねー」


ふふふ、と手を口にあててニヤニヤした目つきの常連さんを、私はぽかんと見つめ返した。


「はい?」
「ここ、出来たときから通わせてもらってるけど、ご夫婦で営んでたなんて知らなかったわ」
「ご、ご夫婦……?」


話の内容がが理解できなくて、緩慢な動きでレシートを渡すと、それをお財布に仕舞った常連さんはカウンターの中にいる智兄と目の前でキョトンとする私を交互に見た。


「あなたたち、苗字が同じだから。気付いたの〜! 目敏いでしょ⁉︎」



と、冷やかすような口調で言った途端。

周りにいたお連れ様達が、「あらまあ! おめでとう!」「知らなかったわー、ご夫婦なの?」などという、完全にお門違いな歓声を上げ始めた。