アンニュイな彼

「暗いし、送ってく。」
「えっ! いいんですか⁉︎」


うそ……、先生が送ってくれるだなんて、信じられない。
気が変わらないうちに、急がなきゃ!


「ありがとうございます!」


エレベーターの扉が開いて、先に乗り込んだ先生のあとに私も続いた。立体駐車場の通用口がある三階に着き、駐車場に向かう。

満車状態で停められた車の中で、一際大きなSUVの黒い車の運転席前で、先生は足を止めた。
通勤時に見かけたことがあるから、先生の愛車は知ってたけど、まさか助手席に乗れるなんて。

嬉しすぎて、右手と右足が一緒に出ちゃう、変な行進みたいなすごい運動音痴な歩き方で、私は助手席側に回った。


「おじゃ、お邪魔します……」
「ベルトしてね」
「あ、はい」


ドアを開け、車高の高い座席によっこいしょと私が乗る間に、先生はエンジンをかけた。


「先生、うちsugar gardenのすぐ近くです」
「あのカフェに就職したの?」
「うぇ⁉︎」


まさか先生から質問されると思ってもいなかったので、私は面食らって答える。


「就職したってわけじゃないんですけど……。あそこ、うちのいとこがやってる店で。私が短大卒業する頃にスタッフさんが産休とかで一気に辞めちゃって、ちょうどスティックチーズケーキが人気商品になってきてた時期だったんで、急遽人手不足を補うために手伝ってたのがそのまま今でも続いてて。まあ、昔から飲食で働きたいとは思っていたし、チーズケーキがスイーツの中で一番好きなので、囲まれて働くのは嬉しいかな、ってな環境ではあるんですけど……」


って、ここまで説明する必要なかったかな。

その証拠に、先生はまったくもって興味なさげに運転し続けている。
狭い駐車場内を通り抜け、外に出ると辺りはすっかり日が沈んでいた。