斜め後ろから声をかけると、先生はうんともすんとも言わず、チケット売り場の列に並んだ。

本当は、真菜が観たがってた恋愛映画が良かったんだけど、それだとあまりにもデートっぽさを意識しすぎのような気もしたし、なんとなくだけど恋愛映画だと先生途中で寝ちゃいそうだなぁと思って、評判のいいサスペンスにした。


「先生、ポップコーン買ってもいですか?」
「どーぞ。」
「はい」


チケットを買ったあと、私はキャラメル味のポップコーンとコーヒーを買った。
お礼のつもりだったのに、先生はチケット代を払おうとする私をお得意の無視攻撃であしらった。

なので、せめてポップコーンくらいは私が、って思ったんだけど……。


「先生、食べますか?」
「甘いの苦手。」
「そ、そうですか……」


席に着き、意気揚々と先生に差し出したポップコーンを、私はおずおずと自分の元に引き戻した。

先生、甘いもの苦手なんだ。
塩味にすれば良かった……。

なんて後悔していると、辺りは真っ暗になって予告が始まる。
公開になって間もない話題の映画だし、週末ってこともあって席はほとんど埋め尽くされている。

私は姿勢を正し、目の前の大きなスクリーンを見る振りをして、目だけを器用に動かして隣の先生を見た。

先生は肩肘をつき、限りなく目を細めている。
そしてコーヒーを啜り、息を吐いた。

私、先生の隣に座ってるんだ……。

そう意識し出しちゃうと、先生の方の身体のぱっくり縦半分がやたら緊張する。
こうなってくるともう映画の内容どころじゃない。
だって先生と並んで座っていることが奇跡すぎて。フィクションには敵わない。

一瞬静かになったとき、私の鼓動が先生に伝わらないか不安になったけど、それは杞憂だった。
なぜなら本編が始まって早々、ものの五分足らずで、先生は静かに夢の世界に誘われて行った。