「っきゃー」


想像しただけで胸がキュンとする。
真っ赤になっているであろう頬を両手で覆う。通りすぎる人に怪しい目で見られているような気がして、恥ずかしくて顔を背けると。


「__楽しい?」
「っ⁉︎」
「百面相。」
「せ、先生!」


なんと背後に先生の姿が!
しかも結構距離が近くて、驚きで目をまん丸にする私を呆れたような顔で見つめている。

よ、よりによって一番見られたくない人に目撃されてるし!


「ひゃ、百面相なんてしてません……!」


言いながら、私は先生をチラチラ盗み見した。まともに見るには眩くてたまらないからだ。

先生はいつもの白いシャツではなく、細身の黒いズボンにカーキ色のシャツコートを羽織っている。シンプルなんだけど先生が着たら、オシャレですごくカッコいい。
今日もすれ違う女子たちが皆、先生のことを見ている。


「ところで先生、いつからそこにいたんですか?」
「藤野が変な顔をする前から。」
「え⁉︎ ひ、ひどい!」


ずっと駅の方見てたけど、まさかいつのまにか背後に立ってたなんて。全然気がつかなかった。


「どれ?」
「へ?」
「どれ観るの?」
「あ……」


コートのポケットに両手を突っ込んだ先生は、にべもなく、先にスタスタと歩き出す。
私は小走りで後を追った。


「話題のサスペンスとかいかがでしょうか?」