「お、佐伯」

振り向くと、先生が手に何かを持ってこちらへ近付いてきていることに気が付く。

その時に「居た居た」と小さな声で言ってい
るのが聞こえた。

どうも私を探していたらしい。

「すまん佐伯、これお前のクラスの奴のノートなんだが」

何でしょう、と訪ねる前に先生は用件を話し始めた。

「名前が無くて、採点はちゃんとしたんだが持ち主が分からなくて返せなかったんだ」

それは今日の授業で返却された英語のノート。
中身を拝見させてもらうと、綺麗な字をしているが、所々字が雑になっている。

「多分女子だと思うんだが、流石に誰だかは検討がつかなかったんだ。だから学級委員のお前に頼んだ方が吉かと思って」

「…分かりました、返しておきます」

ここで断れば先生の機嫌が悪くなってしまうだろう。

先生は「ありがとうな」と言って、私にノートを受け渡し、急ぎめに廊下を歩き出した。

(本当は飲み物買いに行きたかったけど、早く持ち主に返した方がいいかな…)


私は踵を返し、教室へ戻るルートへと変更した。