誰も彼女を追いかけようとしない。只俯くばかり。自分達は何もしていない、何も悪くないと言っているみたいだ。

あのしっかり者の秋桜は反応に困っているようだった。


私は誰にも言わずそっと教室を出た。








「ここ何処だろう?」


私、四葉 夜空は校内で迷子になっています。

この学園はとにかく広い。

私には今自分が何処にいるのかすら分かりません。


「………あれ?ここって…」


迷子になった場合その場所から動いてはいけないというのが一般的だがこの学園はとにかく広い。だから人気のないところが生まれやすい。

私の周りには誰もいない。

なので人に道を聞くことも出来ず、歩くしかない、ということで歩いていると見覚えのある場所が見えてきた。


中庭だ。


校内とは違い広すぎるということがないこの中庭は様々な草花で彩られていた。

そこに1つの影があった。

何だろうと覗いてみると


「……浅野さん?」


どうしたの?と目線で問いかける。

「あっ、あらぁ?四葉さんじゃぁない。どぉしたのかしらぁ?」

ビクンッ、と肩を揺らしあの甘ったるい声で彼女は言った。その目下には赤い痕がある。

「あー、迷っちゃって。浅野さん、ここ何処か分かるかな?」


嘘。


ここが中庭だって分かっている。本当はここからの帰り道が聞きたい。

けど、それは彼女をあの空気の教室に連れ戻すことにつながるかもしれない。あの居心地の悪いところに私ですら行きたくないのにあの空気をつくった彼女に行かせるのにはちょっと気が引ける。


「えぇ、分かるわよぉ〜。ここは中庭なのぉ。」


予想通りの答え。

なんて返したらいいのか分からない。
そんな私の表情を見て浅野さんは察しただろう。

「四葉さんはぁあたしをぉ心配してきてくれたのぉ?」




「……………。」


何も言えない。

「なぁんてぇ、自意識過剰かなあ。」

私たちの間に沈黙が流れる。


「ねぇ、四葉さん。あたしの話聞いてくださる?そう長くは語りませんし、聞き流すだけでいいの。」


お願い、と言うようにじっと見つめてくる。突然変わった口調に驚き、私は頷くしかなかった。



「あたしの家は代々王族を守る近衛兵長を務めている武家なの。

あたしには小さい頃友達がいたのだけれど、ある日その子と喧嘩してしまって……。あたし、カッとなってその子を叩いたの。

そしたらその子がいったのよ。
" あーちゃんなんてだいきらいっっ。みんなにいってやる!あーちゃんは……ともだちをたたいてよろこぶ、さいていな女の子だって……!!!! "」

笑っちゃうわよね。と寂しそうに彼女はちいさくみえた。

「次第に" 友達を叩いて喜ぶ最低な女の子 ".というレッテルは" 家の権力を使って友達を叩く女 "に変わってしまった。」


「だから、教室の空気が悪くなったんだね。」