倖は泣かなかった
「心残りは望だけ。だって私、家族とかいないし?」

倖の親は2年前に亡くなった。良い家の生まれだっただけあって、この小さい地元に話が広まるのも遅くなかった。親戚と呼べるのは母方の祖父母のみ。

「別に死んだって_...」


なんだか、苦しくて我慢できなかった。

「やめてよ、俺の前でそんなこと言わないで」
「俺がいること、忘れないで。独りなんて悲しいこと言わないで」



突き放された気がして抱きしめる力を無意識に強めた。
自分を勇気付けるみたいに。