一時間ほど走った車の窓越しに、並木で囲まれた自然科学研究科キャンパスが見えてきた。

道路沿いには団地やガソリンスタンドやスーパーが立ち並ぶ、いたってありふれた郊外の景色。

キャンパスの向こう側には緑あふれる丘陵地帯が広がる。

(なんだか…)

こんなトコまで連れて来られてしまったって感じだな~。

「さあ着きましたよ」

正門から入って車止めのバーをくぐり抜けたすぐの場所に、まだ新しい飾り気の無い四角いビルが建っていた。

「ここが近未来研究所ですよ」

正面にある車寄せに車を止める所長。

車から降りた僕は、ビルを見上げながら、ガラス張りのエントランスへと歩いた。

コンクリート打ち放しのグレーの壁にピカピカに磨かれたシャープなガラス窓。

(さすが、理系の研究所って感じだな)

ピリリとした緊張感が建物にも漂ってる。

気付くとミライが、後ろからヒールの音をコツコツ響かせてついて来てた。

(病気を抱えながら、ここで毎日研究してるのか~)

きっと真面目な子なんだろうな。

「ちょっと待ってください、すーぐ開けますから」

と所長が自動ドアの脇の、指揮台の様な台に載った液晶パネルに歩み寄った。

『こんにちは』の文字が横向きに絶え間なく流れる画面。

所長が前に立って画面を覗き込んだとたん、『虹彩を認証しました。お帰りなさいませ』と文字が浮かび上がって、自動ドアがウィーンと開いた。

「へえ、虹彩で個人認証を」

「ハ~イ。何しろ研究しているモノがモノですからね」

ニッと微笑む所長。

そうだよ、こんな立派な建物の中で、

「一体何を研究してるんですか?」

僕が関われる研究なんですかそれは。