所長が運転する車の後部座席に、僕は彼女と並んで座った。

「あの、名前は何ていうんですか?」

まずはそれを聞いとかないと。

「ミライです。栗栖ミライ」

「へぇ、所長と同じ名字なんだ」

「ボクの姪だからね。ボクと同じ血筋の、優秀なプログラマーなんだ。今ウチで大切に預かってるんだよ」

所長がハンドルを握りながら自慢げに口を挟んできた。

「でさ、通勤の時間が心配だから、こっちの女子学生寮で部屋を探したんだけど、2週間待ちだって言われちゃってさ~」

所長が振り返ってくる。

「だからその間、この子を君の部屋で預かってくれないかな?」

えーっ!?

「僕の部屋でですか!?」

いや、それはマズイですよ。

「僕だって男なんですよっ」

独身の男の部屋に泊めるなんてちょっと。

「わかってるよ。でも君を信じて預けたいんだ」

いやあの、信じてもらえるのは嬉しいですけど、

「2週間ぐらいだったら、所長の家から通ったらいいじゃないですか」

その方が無難じゃないですか?

「そういうワケにもいかないんだよ」

所長が眉をしかめてる。

「どうしてですか?」

聞き返すと、所長がしばらく黙り込んだ。

「実は、ね…」

ん、何ですか?急に口ごもって。

「ミライはこう見えて、難病を抱えてるんだよ」

「えっ?」

突然何を言い出すんですか?

「ウソでしょ?」

全然健康そうに見えますけど?!

「本当だよ。固形物が飲み込めないから、経口栄養剤をこまめに飲んでるんだ」

「食べられないんですか?」

こんなに元気そうなのに。

「そう。こうなったのはつい最近なんだ。週末は泊り掛けで、胃ろうって体に開けた穴から直接胃に栄養を流し込んでるんだよ」

えっ、そうなんだ。

そんなに重い病気なんだ彼女。

「ひょっとして長くないんですか?」

あっ、シマッタ。

「…わからない」

首を振る彼女。

マズイ事聞いちゃったな。