「とにかく、今日は所長の研究所に行って来てくれるか。この話を言い出したのは彼の方だ、今後の段取りの一切は彼に任せてある。君が、しっかりと話を全部聞いておいてくれ」

「えっ、私が一人で、ですか?」

教授は行かないんですか?

「そうだ。私は、あそこで事務局長をやっている男が大嫌いでな。あの男がいる限り、私があそこへ足を運ぶ事はないな」

フンッと息巻く教授。

ビックリですよ。

まるで子供の言い訳じゃないですか…。

「後で詳しく報告するようにな。よろしく頼んだぞ」

教授が椅子に腰掛けたかと思うと、新聞をバサッと開いて鼻眼鏡で読み始めた。

(…いい身分ですね、教授って)

悔しいというか、

うらやましいというか。

早く出世シタイ…。

「さあ、さっそく行きましょうかぁ!」

と、横から所長がニコニコと楽しげな笑顔で明るく声を掛けてきた。

(ウ~ン、)

この人もちょっと普通じゃない。

(まあ、何か人と違うトコロがあるから、)

教授だ所長だって身分になれるのかもしれないけど。

「私の車でご案内しますから~。さあ行きましょう行きましょう」

所長がサッと部屋の扉を開けて待ち構えてる。

隣に並んだ彼女も、じっと僕を見てる。

「わかりました、行きますよ」

場の雰囲気と命令には逆らわない。

ここで上手くやっていくコツ、ってやつだ。