「どうしようもないよ。夏に進化したココロを組込んだ時、プログラムにプロテクトを掛けてしまったんだ。プログラムに外部から手を加えようとした途端に、データが全て消去されてしまうんだよ。もうミライは自分の考えだけで動くようになってる。どんな行動をするのか観察する意味もあってね。それが裏目に出てしまったかな…」

俯いて黙り込む所長。

と、横から本田君が声を掛けてきた。

「所長、本当に実行するんですか。局長の言う通りにミライを…」

語尾を濁す本田君。

(初期化するんですか?)

ミライのココロを白紙にするっていうんですか!

「本田君、そんなコト出来ると思うかい?初期化なんかしたら、今まで必死に積み上げてきた時間も苦労も何もかも全部ナシになるんだ。そんなの許せるワケがないよ」

ガックリとうな垂れる所長。

同じ気持ちですよ、所長。

「ですが、そうしないとこのままだと、ミライがロイのようになりますよ」

そうか。

考えたくない。

寂しげな顔で台の上に横たわって、挙句に片目を外されたロイのような姿にミライがなってしまうなんて…。

「わかってる。わかってるさ。だけど…」

俯いたまま言葉を飲み込む所長。

(そんなのどっちも選べるワケないよ)

初期化して、今までミライと過ごしてきた時間を全て消し去るのか。

それとも、ミライが深い悲しみに身を沈める道を選ぶのか…。

どっちにしたってあまりに酷な結末だ。

(一体どうするんですか…)

全然先が読めない。

所長も顔を伏せたままだ。

「あああ、ミライがぁ…」

と、呟く声と共にポタッと床に落ちる雫を目にして、何も言い出せなくなった。

一体、どうすればいいって言うんだ。