「だからもうムリ…。私、もう研究の方を選ぶって決めたんだから」

広海君は、僕の手を解こうともしないで、化粧水の瓶をバッグに戻そうと体を捻ってる。

「そんなこと言うなよっ」

このまま別れたくなんかない。

力を込めて彼女の肩を揺すった。

が、されるまま体に力を入れず、ちっとも逆らおうとしてこない。

挙句に、そのまま保湿クリームの容器を取り出そうとしてるじゃないか。

「どうして、」

どうしてそんなに落ち着いて居られるんだ。

こっちは居ても立ってもいられないっていうのにっ!

「広海っ!」

背中を向けてる彼女を強引に引っ張り戻すと、バランスを支えきれなくなった彼女がバタンと布団の上に倒れた。

髪の毛が白いシーツの上に弾け、パジャマが張り裂けんばかりの大きな胸がたわわと揺れる。

「…」

クリームの容器が畳の上を転がって壁に当たるまでの間、じっと見つめあった。

「変わらないわよ」

なんて冷たい声なんだ。

僕が何をしたところで、彼女は変わらない。

このまま強引に抱いたって変わらない。

もう変わらないんだ。

「わかったよ…」

引っ張り起こして、転がった容器を取って手渡す。

「ありがと」

受け取って、何事も無かったかのようにクリームを顔に塗っていく広海君。

(少しも)

少しも心動いてないのか。

(こんなに傍にいるのに…)

僕はもう、それだけの存在でしかないんだな、広海君。