夕方。

所長が控え室に戻って来た。

「やあみんな、ただいま~」

カバンを傍の机の上に置いた所長が、僕を見つけてアレッと目を見開いた。

「どうしたんだい?何かあったのかい?」

尋ねながら寄って来る。

朝からの騒ぎを知らないみたいだ。

「あったからここにいるんですよ。朝から僕らの所にマスコミとヤジ馬が押し寄せて来たんで、逃げて来たんです」

「マスコミとヤジ馬が、そんなにたくさん?」

目をパチクリさせてる。

「ええ。ドッと押し寄せて来るぐらい」

「そうかぁ。ウンウン、これはミライの方が人気が出そうだね」

って所長、何ヒトゴトみたいに喜んでるんですか。

「勘弁してくださいよ。矢面に立つ僕の身にもなってくださいって」

実験どころじゃないんですから。

「ゴメンゴメン。でもそんなに騒ぎになるんなら、危なくないように何か手を打たないといけないね。考えとくからさ、とりあえずしばらくはミライはここに置いといてよ」

そうですね。

その方が安全かも。

「あっ、何だったら君も泊まってくかい?明日はここから大学に通えばいいんだし、その方がきっと静かに眠れるよ」

あ~、なるほど。

朝が早くなるけど、通えない事はないし、マンションを取り囲まれて騒ぎになる事もないし、いいかも。

「仮眠室に布団はあるからさ」

微笑む所長。

と、奥から広海君が身を乗り出してきた。