「ねぇ、お見舞いに行きましょうよ、クワンさんの」

ミライが心配そうに声を掛けてきた。

「あ、ああ、そうだね」

どこの病院だろう、と尋ねようとした時、本田君が急に立ち上がった。

「病院には行かないでくれませんか!」

「えっ?」

行かないでくれって?

「あんまり動き回らないで欲しいんです」

「どうして?」

それはどういう理由だろう。

「ロイの事は知られてしまいましたが、ミライはまだ世間には知られてはいません。周りにはロイの事を聞きつけたマスコミが溢れています。もし今、ミライの事まで嗅ぎ付けられてしまったら、収拾がつかなくなるに決まってますよ」

「そうか」

呟いてミライを見た。

ミライの事が知られたら、確実に僕の実験室にまで騒動が広がってくる。

「それに見舞いに行ったって、クワンはもう何も応えてはくれないんです…」

本田君が悲しげに呟いてる。

そうだよな。

力なく肩を落とした姿を見せられちゃ何も言い返せないよ。

「いろいろと落ち着くまで、今は自重していてもらえませんか」

本田君が懇願してる。

頷いて返す以外ない。

「良かった。そうだ、控え室に行きませんか。コーヒーぐらいお出ししますよ。インスタントですけどね」

と、本田君の顔にその日初めて笑みがこぼれた。

「アハハ。ご馳走になるよ」

所長の口癖も、こういう時に役に立つんだな。