「管理者を変更しようと思ったら、やっぱりセーフモードで再起動するしかないんだ」

あっ、そうか。

と、所長がスッとしゃがみ込んでロイの手をいたわるように握り締めた。

「だからやるとするなら、動かなくなったロイを病院まで担いで行って、意識不明のままのクワンの身体を起こしてロイと見つめ合わせて、横から合成したクワンの声で、こう命令するしかないんだ」

所長がギュッと目を閉じる。

「管理者を変えなさいって。私の事は忘れなさいって。もう私とあなたは何でもないのよって…」

なんだか、

「寂しい話ですね」

ロボット相手とはいえ、所長の言葉は悲しく耳に響いてくる。

「他に、何かやり様はないんですか?」

このまま見ているだけじゃ、どうしようもないですよ。

「…やるとするならバラすしかないけど、データのプロテクトが何重にも掛かってるし、ロイ自身がデータを保存フォルダに移動してない可能性もある。そうなると断片化したデータを解析するのは一苦労だよ。その後は初期化してまたゼロからのスタートになるし…」

所長が溜息をついてる。

でも、それしか方法がないんだったら…。

「それに、ヘタに手を出してデータが消えたら、証拠隠滅したんじゃないかって疑われるからね」

あっそうか。

それは嫌だな。

(変に疑われるのはシャクだし)

と、所長がフ~ッと息を吐いた後、スッと顔を上げた。

「…状況は芳しくない。ロイの問題は解決の目途が立たないし、クワンの意識が戻る見込みも依然としてない。だけど、ここで立ち止まってはいられない。ボクらには、まだやるべき事がある」

所長が立ち上がって、みんなを見回した。

「こんな時こそ前を向いて、自分に出来る事を考えよう」

所長はこんな時でも前を向いてるんだ。

「いろいろと考えないといけない事があるんだ。本田君、ここは君に任せるから後は頼むよ」

所長が本田君の肩を叩いて、ゆっくりした足取りで研究室を出て行く。

なんだか急に、僕なんかじゃ近寄りがたいオーラを感じますよ、所長。