広海君の部屋の前でドアをノックして、三人でそれぞれ名前を呼び掛ける。

やがて、ごそごそと扉が開いて広海君がやつれた姿で現れた。

「だ、大丈夫か?」

一体どうしたんだよ、そんな気力のない顔。

と、力なく首を振って、ガクッと顔を伏せてくるじゃないか。

「死にそう…」

えっ!

「昨日の夜からナンにも食べてないの」

とお腹を押さえてる。

なんだ。

「心配させるなよ~」

中に入って肩に手を掛け、抱きかかえる様に部屋の奥のベッドへと連れて行った。

「薬は飲んだの?」

ミライの問い掛けにかろうじて頷く広海君。

「ウン、病院に行った方がイイね。車で来たから送っていくよ」

声を掛ける所長。

と、ブンブンと首を振って返す広海君。

毛布に包まるように身を縮めてる。

「おフロも入ってないし、こんな格好じゃ行けない」

…って、こんな時に。

「ハハ、そう言う元気があるなら、大丈夫かな」

マッタク。

ナニ気にして丸まってるんだか。

「お腹空いてる?おかゆ作るけど、お米ある?」

しゃがみ込んだミライに、広海君が無いと首を振って返してる。

「じゃあ買って来よう。来る途中にお店があったからね。適当に見繕ってくるよ」

所長が笑顔で出て行った。

「あと、体拭いて着替えた方がいいわ。タオルはどこ?」

尋ねられた広海君が、僕に目配せしてきた。

「先生お願い」

こんな時は可愛らしくお願いしてくれるんだな。

「わかった。揃えるよ」

今日は素直にお願いを聞いてあげよう。

「ミライさん、」

と広海君が、じっとミライを見つめた。

「ありがとう」

言葉を掛けた広海君の目は、風邪のせいか嬉しさのせいか、涙が薄っすらとにじんでるみたいだった。

「どういたしまして」

返事を聞いた広海君のミライを見る目が、その日からちょっと変わったように思えた。