ミライが所長と一緒に研究所に戻った夜。

広海君が机に座ったままパソコンと向き合って、珍しく動こうとしない。

「どうしたんだ、帰らないのか?」

なんだか不機嫌そうにしてる。

と、画面を見つめたままブスッと返してきた。

「いい」

顎が上がってる。

これは近寄らないでのサインだ。

「ど、どうしたんだよ、急にパソコンに向き合ったりして」

別に実験があったわけでもないのに。

「このところ先生がミライさんと仲良くしてたから、私も何かやっとかなくちゃって思っただけ」

溜息交じりに答えてくる。

ハハ~ン…。

僕がミライと二人で楽しく採点してたから、妬いてるんだナ。

可愛いヤツめ。

内心微笑んでいると、広海君がキッと鋭く向き直ってきた。

「先生、私に隠し事してないわよね」

ニラむ様に噛みついてくる。

浮かれ気分は一瞬で吹き飛んだ。

「えっ、してないけど」

反射的に答えた。

いや、実はひとつだけ、ミライの正体って大きな隠し事があるんだけど。

(言うわけにはいかないもんな)

と、広海君がグッと身を乗り出してきた。

「嘘ついてない?」

「ついてないよ」

売り言葉に買い言葉だ。

マズイかなとは思った。

けど、ここはそう答えるしかないし…。

(まさか、気付いたとか…)

ゲゲッ、眉をギュッとしかめてきてるよ。