大学の傍の喫茶店で夕食を済ませてから、広海君の部屋へと帰ってきた。

途中で三度も学生に声を掛けられながら。

う~んやっぱり、

「教官が学生の部屋に足繁く通うってのは、どうにも倫理上良くないよなぁ…」

教育者としてのメンツが保てないよ。

「そんな事ないわよ。好きになれば教官とか学生とかそんなの関係ない。堂々としてればイイじゃない」

玄関ドアを開けて中へ入る広海君。

君はそれでイイだろうけど。

「そうは言うけど、やっぱりツッ込まれた時の言い訳が立たないしなぁ…」

呟きながら中に入る。

僕にだって立場ってものがあるんだよ。

と、靴を脱いで一歩上がった途端、広海君がパッと振り返ってきた。

「ね、先生、結婚しよっ」

オイッ!何でそっちに話が飛ぶっ!

「夫婦になれば、誰にも文句は言われないじゃない。ねぇ、センセ」

って、嬉しそうに腕を取って来るなって。

「そりゃそうだろうけど…」

いきなり結婚、なんて言われてもな。

そりゃあ可愛いって思うしせっかくイイ関係になったんだし、付き合っていたいと思うけど結婚はまだどうかなあ…。

一瞬でグルグルと考えが巡る。

「今すぐどうこうって返事は無理だけど」

とりあえず返事をぼかしてみる。

と、広海君が僕の襟元に手を添えて身をくねらせて、ちょっぴり小首を傾げてみせた。

「だけどぉ?」

お得意のもてあそぶ仕草だよ。

でも、どこか心惹かれるのはなぜだろう。