「あの中身、栄養補給の薬なんでしょ。さっきミライさんがそういって飲んでた」

玄関を振り返る広海君。

ようやくわかった。

メタノールのタンクを、ミライが薬だと言ってゴマかしたんだな。

「そ、そう、実はそうなんだ」

最初からそう言っとけば良かったな。

「騙すつもりはなかったんだけど、つい話の、」

と言いかけた僕を遮って、広海君が僕の両肩を掴んで、ブンッと首を振って返してきた。

今にも泣きそうに眉をくねらせてる。

ど、どうしたんだよ。

「ミライさん答えてくれたわ。どのくらい生きられるのか、わからないって」

「えっ…」

ミライは前にも一度、僕に同じように答えてる。

ミライには寿命なんてないんだ。

どのくらい生きられるの、って心配して聞いた広海君に、わからないって素直に答えたんだ、ミライは。

と、急にシュンと大人しくなる広海君。

「…ううん、先生を責めてるんじゃないの。私も同じ立場だったら、気を使わせない様にきっと同じようにしてたと思う。まさかそこまでだなんて思わなかった。…もうわかったから、これからもっと優しくしてあげなきゃね」

すっかり慈悲深い顔を見せてくる。

「あ、ああ」

思い込みもここまで来ると、ちょっと怖いような。

と広海君がフッと素直な笑みを見せて立ち上がって、洗面室へと入っていった。

(話が怖いぐらい上手く進んでるけど…)

崩れた時にどうなるんだろう。

今が順風満帆なだけに不安になってくる。

(タンクなんて小さな嘘でこうだもんな)

と、買い物から帰ってきたミライを気づかって一緒にキッチンに立つ広海君。

はてさて、どうなるんだろう…。