「でんわでーす」

と、机の上でミーちゃんが声を上げた。

「はいはーい、ありがとう」

所長がミーちゃんの頭を撫で、カバンの中から携帯を取り出す。

(携帯が鳴るとミーちゃんが呼ぶのか)

ミャ~と鳴いて頭を掻くミーちゃん。

その横で所長が携帯を開いた。

「うわぁ、局長からTV電話だよ」

ん?

局長って、教授が嫌がる事務局長?

「マイッタなあ」

所長が開いた携帯を顔から少し離して構える。

と、画面が生の映像に切り替わった。

(わっ!)

画面に、顔から察するにかなりなメタボ体型だろうなと思わせる年配の男性のしかめっ面が映った。

(この人が、)

事務局長なのか。

「コラッ!いつまで人を待たせるつもりだっ!こっちはいつでも契約出来る様に待ち構えとるんだぞっ。マッタク、もうすぐ昼だというのに、まさか貴様、契約も交わさん内に共同研究を始めるつもりじゃあるまいなっ」

いきなりカンシャクを飛ばしてくる局長。

「え、いえ、そんな事は…」

「だったら早く契約に来んか。マッタク、この私に昼を延ばせと言うつもりかね」

画面に映る踏ん反り返る局長。

「え、いえ、わかりました、今すぐに…」

「待っとるぞ」

と、画像がブツンと真っ黒になって電話が切れた。

(ヤナ感じ…)

教授が嫌うのも頷ける。

もし僕の上官だったら転職を考えるね。

「ホント耳につきますねぇ、局長の無粋な声は」

メガネを指で押し上げる本田君。

しかめっ面になる気持ちはわかるよ。

「伝言メールで聞いてごらんよ。気になってしょうがないんだから」

呟いた所長がパッと振り返ってきた。

「ま、ジタバタしててもしょうがないね。さ~あ、行こうか!」

声を掛けてきた所長は、さっきまでと変わらない明るい笑顔。

この人、ちっともヘコんでなんかないみたいだ。