「あれっ、ひょっとしてまだ大学かい?」

気付いて声のトーンを少し落とす所長。

そうですよ。

下手な事は言わないで下さいよ、一緒に広海君がいるんですからね。

「どうしたんですか?」

尋ねると、所長がニッコリと笑顔になって返してきた。

「ウン、どうしても君に来て欲しくてね。今からどうかな」

えっ?

「今からですか?」

「そう」

と所長が、力の篭った声で続けてきた。

「お願いだよ。こんな時間にって言いたい気持ちはよくわかる。でもどうしても来て欲しいんだ」

画面の向こうで頭を下げる所長。

思わず広海君と顔を見合わせる。

「行ってあげたら?」

広海君が微笑んで返してくる。

君がそう言うなら、

「じゃあ、行きますよ所長」

答えて、待ってるよと返してきた所長が電話を切るのを待って、携帯を閉じた。

「…じゃ、行ってくるよ」

声を掛けると、僕の手を広海君が両手で握ってきた。

「私、先に帰って待ってるから、来て♪」

愛らしい声でしな垂れる広海君。

「わかったよ」

手を振って部屋を出る。

ウフフ、早く帰らないとな♪

急いで外へ飛び出してタクシーを拾って、研究所へと駆けつけた。