お盆を迎える8月13日。

暦の上では平日で、一応出勤はしてるけど教授も学生達も帰省中、ミライは所長に預けてそれっきりで、たった一人の実験室。

(ま、束の間の安息、って考えとくか)

ミライや広海君が戻ってくればまた慌しい日々が始まるしな。

静まり返った午後の時間がゆっくり過ぎていくなんて滅多にないよ。

「センセー居る~?」

あぁ、聞きなれた声が。

ハァ~。

どうやら僕には安息日は無いみたいだ。

「どうしたんだい、実家に帰るんじゃなかったのか?」

振り返ると、広海君が扉に背中でもたれる様に立っていた。

そのまま後ろ手でドアノブを掴んで、ガチャンと扉を閉めてる。

「うん、帰りたいけど、帰りたくない…」

いつに無くセンチメンタルな雰囲気。

何かあったなこれは。

「どうして?理由があるなら聞くよ」

ここは話し相手になってあげないと。

と、広海君がたすきに掛けたバッグを前に廻しながら寄って来て、椅子に浅く前のめりに腰掛けた。

(あ、)

薬指にいつものリングがない。

センチメンタルな理由はそれか。

と、広海君がハア~ッと一つ息を吐いた。