日が落ちて暗くなり始めた大学の実験室。

一人で戻って来て扉を開けた。

「広海君、帰っちゃったか…」

もう実験は終わっていて、モヌケの殻だ。

夕暮れの茜色の西日がブラインド越しに縞模様になって差し込む室内には、測定機器の載ったワゴンがあちこちに放り出されたまま。

「ハア…」

なんとも物寂しいよ。




 アパートの階段を力なく三階へ昇る。

ペタンペタンという自分の足音がいつになく耳に響いてくる。

「…」

無言でドアを開けて靴を脱いで鍵を掛けて、部屋へと入る。

当然だけどミライはいない。

(久しぶりだよなぁ、一人って…)

ふと、畳んで置いてあるミライの着替えや干したままの洗濯物やチェストの上の化粧品が目に入った。

普段は気にしないのに。

こんな時に限って目に付いて離れない。

(一人か…)

フロに交代で入る事もないし、アイロンを掛けてくれる事もないし、テレビを見ながら質問してくる事もない。

(つい半年前までは、それが当たり前だったんだよな)

何だか寂しい。

(なんでだろう…)

一人の寂しさには慣れていたハズなのに。

(…)

心にポッカリと穴が開いたような、虚しい孤独感。

(誰かこの寂しさを埋めてくれっ)

この感じ、味わったのはいつ以来だろう。