控え室の奥からコーヒーカップを二つ手に持って戻ってきた所長が、カップを机の上に置いて、椅子に腰掛けた。

「あれから考えたんだよ」

「あれから?」

「そう。君が言ったろ、センサーがどうこうって話しをさ」

それってマンションのベランダで話した、嬉しさを測るセンサーの事ですか?

「えっじゃあ見つけたんですか?嬉しさを測るセンサーを?」

「まさかぁ。さすがに無いと思うよそんなセンサーは。ボクが考えたのはね、センサーの方じゃないんだよ、ウン」

と、椅子にもたれてのんびりとカップを口へ運んでみせる所長。

「じゃあ、一体何なんです?」

じれったいですよ所長。

「うん。ミライは、暑さや寒さをセンサーで感じて服を調節するようにプログラムしてある。それはなぜなのか。ヒントはそこにあったんだよ」

「どういう事ですか?」

全然ピンと来ないんですけど。

「ミライの体をコントロールしているのは電気、いや、正確に言うと電圧なんだ」

「電圧、が」

それがどういう関係が?

「ウン。温度で金属や半導体の電気抵抗率は変わってくる。その為に起こる電圧の変化はミライの動作に影響するから、『イヤだ』と判断して服を調節するようプログラムされてる。なるべく冷却装置を使わずに消費電力を抑えて電圧を一定にするためにね。そこまで考えた時、パッと閃いたんだ」

手をパッと開いてみせる所長。