「じゃあ聞きたい。ボクは子供の頃から疑問に思ってたんだ。地球が誕生して、物質だけだった世界に始めて生命が生まれた時、それまで『モノ』に過ぎなかった物が、なぜ急に意識を持つことが出来たんだろうって」

「う、…」

僕は答えられなかった。

「物質が意識を持った瞬間に、それは命に変わった。興味深い事だとは思わないかい?モノが意識を持った事がじゃないよ。ボクが心惹かれたのは、その過程なんだよ」

グラスを持ち上げて見つめる所長。

「ボクはずっと考えてたんだ…。なんにもないところに突然ポッと生まれた初めての意識。その時、物質だったモノが初めて意識を持った時、一体それは何を思ったのか」

ハッと胸を突かれた。

そんなこと考えた事もなかった。

「太古の昔に戻ってそれを確かめるなんて事は出来ない。だけど、これからに賭ける事は出来るんだ。これからロボットというモノが、初めて感情という意識を持った時、聞いてみたいんだ。『一体初めに、何を思ったのか』ってね…」

熱く語る所長。

(そんな事考えてたんですか…)

所長の胸の奥には、大きな『ロマン』があるんだ。

「いやいや、ちょっと語り過ぎちゃったかな。そろそろ帰ろうか」

立ち上がって勘定を払い始める所長。

「そうそう、まだ不安に思ってるみたいだけど、感じるココロは必ず形にしてみせるよ。間違いないよ。このボクが言うんだからね」

ほろ酔い加減の所長が、ちょっとふらつきながら笑っていた。