「人の心はいろんな感情を感じる。楽しい、嬉しい、悲しい、愛おしい、好きだ、嫌いだ、憎い、悔しい、もうイヤだ、殴ってやりたい、うーん、あとそうだなあ…」

宙を見上げる所長。

あと挙げるとすれば、

「食べたい、眠りたいってのは?」

思い付くまま口にしてみた。

「それは欲求って言った方がいいかな。食欲、睡眠欲、それに性欲。それはこの地上で生命を宿すものが、命を紡いでいく基本となるものさ」

なるほど、欲求か。

「どんな原始的な生物にだって食欲はある。他の命を食べて生き延びる。それを繰り返す内に生物は複雑になり、そして感情も複雑に進化してきた」

カランとグラスの氷を響かせる所長。

「食べる食べられるが殺す殺されるに変わって、憎しみや恨みが生まれた。逆に子を産み育てるところから愛する心が生まれた…。なぜ感情は進化してきたのか。そしてこれから、どんな感情が生まれようとしているのか…」

所長が手にしたグラスをじっと見つめる。

言いたい事はなんとなくわかった。

「感じるココロを手に出来れば、それがわかると?」

「さあ、どうだろうね…」

フッと首を振って返して、所長が続ける。