暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】



ドレスの裾が歩くのに邪魔なので、膝辺りまで持ち上げ先を急いでいたが……………


予期せぬ人に遭遇してしまった。


見つかる前に急いで裾を元に戻す。


入り口で立っていたのは、あの商人の姿。


「…………帰る前にこうしてまた会うとは思わなかったよ」

顔は笑っているのに、目は笑っておらず


言葉ではその場の雰囲気を壊さないようにしているが、とても悪いものを感じる。


「私は急いでいますので」    


あえて相手にしないように、その横を通り過ぎた。



下手に捕まってしまうと、色々と面倒だから。


しかし、相手は自分の邪魔をした私を見逃してはくれなかった。

咄嗟に手首を掴まれる。


「おいおい、つれねぇな。俺はこう見えても嬉しいんだぜ?道の邪魔したガキをかばった女と、こうしてまた会えたんだから」


あの事をやはり根に持っているようだ。



「………失礼を申し上げますが、私は全然嬉しくありません。それにこの腕を離して下さいますか?」


「使用人はどうした?」

「貴方に教える義理はございません」 


「…………っふ。馬鹿だなお前は。一言謝れば許してやったのに」


あざ笑うかのように私を見た。