兵士がジリジリと武器を持って近づくにつれて、使用人の叫び声が更に大きく聞こえてくる。
私もこの女の子のように非力で何の力なのない者だ。
止めれる権力すら普段持ち合わせていない。
だけど、今はどうだろう?
私は客人の身だ。そんな方に手を出したりなんかしたら、この件の商談は白紙に戻される恐れがあるではないか。
これを使えば良い。今ある権力を最大限に。
「良いのですか?この私に手を出してしまって」
「な、なんだ?」
こんな状況でも余裕の笑みで言葉を発する私に、一瞬戸惑った様子。
賢い貴方なら、何かあるはずだと思うはずでしょう?
「私は陛下直々に招かれた客人ですよ?偶々あそこにいる使用人とお買い物に出かけたのですが…………何と言うことでしょう!」
(我ながら良い演技だと思う…………)
「これは帰って陛下に知らせた方が良いのかしらね?」
あえて私は陛下に招かれた貴族の娘を演じる。この場しのぎにしかならないが。
それでも向こうにはかなり聞いている。
「な、何だと…………っ!?陛下直々にというとかなりの名家なのか………?それよりもそんな事されたら、今日の商談は破滅しかねない。………………ッチ!!!そこどけ!殺すのはやめだ!!先を急ぐぞ!!!」
「「「「はっ!!!!」」」」
まんまと罠にハマった商人は兵を引き上げ、そそくさと行ってしまった。
あれほどまで集まっていた民衆も、それと同時に散っていった。
「アニ様…………っ!もう、無茶しないでください!!!心臓が止まるかと本気で思いました」
「すまなかった……」
気づけば勝手に体が動いていたのだから仕方がない。
それよりも、
「ねぇ。君大丈夫?」
女の子の方が心配だ。
「痛い…………立てない……………うぅ………っ………こわ……かったぁ!!」
きっと馬に驚いた拍子に地面で膝を擦りむいたのだろう。
痛そうに、すった膝から血が流れ出ている。
「アニ様申し訳ございません。絆創膏は持ち合わせていないのです……」
使用人は絆創膏を持っていない。もちろん私も持っていない。
女の子は未だに痛そうにしている。
こうなったら…………………………



