暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】




兵士がジリジリと武器を持って近づくにつれて、使用人の叫び声が更に大きく聞こえてくる。



私もこの女の子のように非力で何の力なのない者だ。


止めれる権力すら普段持ち合わせていない。


だけど、今はどうだろう?

私は客人の身だ。そんな方に手を出したりなんかしたら、この件の商談は白紙に戻される恐れがあるではないか。


これを使えば良い。今ある権力を最大限に。




「良いのですか?この私に手を出してしまって」


「な、なんだ?」


こんな状況でも余裕の笑みで言葉を発する私に、一瞬戸惑った様子。


賢い貴方なら、何かあるはずだと思うはずでしょう?


「私は陛下直々に招かれた客人ですよ?偶々あそこにいる使用人とお買い物に出かけたのですが…………何と言うことでしょう!」


(我ながら良い演技だと思う…………)


「これは帰って陛下に知らせた方が良いのかしらね?」


あえて私は陛下に招かれた貴族の娘を演じる。この場しのぎにしかならないが。


それでも向こうにはかなり聞いている。


「な、何だと…………っ!?陛下直々にというとかなりの名家なのか………?それよりもそんな事されたら、今日の商談は破滅しかねない。………………ッチ!!!そこどけ!殺すのはやめだ!!先を急ぐぞ!!!」


「「「「はっ!!!!」」」」


まんまと罠にハマった商人は兵を引き上げ、そそくさと行ってしまった。


あれほどまで集まっていた民衆も、それと同時に散っていった。



「アニ様…………っ!もう、無茶しないでください!!!心臓が止まるかと本気で思いました」


「すまなかった……」


気づけば勝手に体が動いていたのだから仕方がない。


それよりも、


「ねぇ。君大丈夫?」


女の子の方が心配だ。


「痛い…………立てない……………うぅ………っ………こわ……かったぁ!!」


きっと馬に驚いた拍子に地面で膝を擦りむいたのだろう。


痛そうに、すった膝から血が流れ出ている。


「アニ様申し訳ございません。絆創膏は持ち合わせていないのです……」

使用人は絆創膏を持っていない。もちろん私も持っていない。


女の子は未だに痛そうにしている。


こうなったら…………………………