暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】




でも、取り敢えずこれで外を出歩くことが出来る。


宮殿内での騒がしさを感じつつも、私は使用人を連れて町へと出て行った。


いつもは市場を使用するが、今日は一度行ってみたかった街中の花屋へ向かう。


前にアイルさんがここの花は最高級なものばかりが揃っていて、貴族御用達なんだと話していた花屋さんだ。


商店街の大通りを通る為、もちろん人通りが多い。

「アニ様。やはり馬車の方が宜しかったのでは?」

「い、いいの!歩く事も時には大切でしょう?」


使用人からは宮殿が所有する馬車を勧められたが、流石にそれは断った。


私のような者に、馬車は贅沢すぎる。


と言っても一度強制的に乗っているのだけど……………。


あの時の乗り心地と言ったら最悪だった。


陛下と2人きりだし、沈黙した雰囲気だったしで、生きた心地がしなかったものよ。


「あそこが花屋さんね」

人混みを抜けると左端に外見からして良い雰囲気の花屋を発見した。


国境近くの商店街で見つけた花屋も良かったけど、ここの店もかなり良いように見える。


______カランッ♪


中は色鮮やかな花たちが、美しく咲き誇っていた。


ブーケも展示されており、ピンク系のブーケがこれまた可愛い。


「まぁ!アニ様にとてもお似合いです♪」

「この花……………部屋に飾れないかな?」


少しだけの滞在だとしても、部屋に彩りのある花が生けられているだけで部屋の雰囲気がかなり変わるものだ。


それにこのブーケを個人的に気に入った。


「いらっしゃいませ。使用人まで引き連れて、どこかの貴族の方ですかな?」


会計先には紳士的な男性店主が、近くにあった花の手入れをしていた。


「………この美しいブーケを部屋に飾りたくて」


違うと否定しても良かったのだけど、今更違うというのもアレなので、笑って誤魔化すことにした。