暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】








私が発した我儘により、先程着替えさせてくれたメイド達に案内されながら陛下の執務室へと足を運んだ。


いつも他の者にお飲み物を届けるように頼んでいた私がここに来るのはもちろん初めての事で、無駄に緊張する。


____コンコンコン。


メイドの1人がドアを叩く。


「どなた様です?」


すると中から、陛下のものとは違う声が聞こえてきた。


(この声は_______宰相様?)


確かに先程聞いたことのある声で、陛下よりは少し高めの透き通った声。


「私(わたくし)はアニ様付きのサニー・ディノンでございます。アニ様が陛下にご用事との事でお連れ致しました」


着替えから何から色々としてくれた、肩下辺りまである髪を一つにくくったこのメイドさんは、サニーと言うらしい。見た目的に大体22歳辺りだろう。


「…………………………………通せ」


沈黙の後に返ってきた返事により、私は1人で執務室の中へ入り、それと入れ替わりに宰相は外へと出ていった。


その時、一瞬だけ感じたのは宰相の突き刺さるような視線であり、何か言いたげにも思えた。


気にしないようにしつつ、資料に囲まれた陛下の元へ歩いていく。


椅子に座った陛下の目の前に立つと、上から下をなめ回すようにじっくりと見られた。

「…………………な、何ですか?」

やはり似合っていないのかもと心の中で不安になる。

「言いたいことがあるのなら、仰ってください!」


どうせなら、似合ってないとズバリ言ってくれた方がモヤモヤしなくてするので助かるのだが、陛下は中々口を開いてくれない。


私をジッと見たままだ。


「あの……………………」


「予想通りだ」

「え?」

いきなり口を開いたことに驚く。

(いや、喋って欲しかったんだけどいきなり開かれると、それはそれで驚くよ………!)


「それは宮殿で使われずに眠っていた物だが、直ぐに見て似合うと思ったのだ」

「え……っ!?」


机に頬杖をつき、微笑むような眼差しで私を見てきたものだから、ますます驚いた。

あんなに冷めた目をしていたのに、こんな表情もするとは思わなかった。

(噂で聞く暴君陛下は何処へ___………?)


「あ、あの……………っ!」

「何だ?」


しかし、その顔は直ぐにいつもの陛下へと戻る。

まるで幻かのように。


「私の為に色々として下さってありがとうございます………………。お部屋なんてとても綺麗で驚きました!」


「………あぁ。あそこは貴族や他国の者を招く際に用いてる部屋でな、内装が凝っておるのだ」

「正直お心遣いがとても嬉しかったです……………。しかし、私は町の娘。貴族の者でも他国の皇族でもございません。そのような私が衣装やお部屋を使うわけにはいかないのです」


周りを騙しているようで心が痛む。


きっと宰相様もいきなり会わられた素性も知れない私の事を不審がられてるに違いない。

だから、あの様な目をなさった。