「…で、禅はなんでプロポーズ渋ってんの?
結衣ちゃんと会えてないことだけが理由じゃないんでしょ?」
ビールの缶を片手で弄びながらそう言う棗。
相変わらずこいつは勘が鋭い。
「…まあな。」
「どうしたの?何かあった?」
遠慮気味にそう尋ねる棗に、俺はしばらく考え込む。
…何かあったのかと聞かれると、たぶん何も無い。
喧嘩したとか倦怠期だとかそんなものは全くなく、高校時代と変わらずに今も愛し合えていると思う。
だけど…
「…受け入れてもらえる気がしねぇ。」
情けない俺の声が、虚しくワンルームの部屋に響く。
「……ふはっ!
らしくねぇ!何弱気になってんだよ!」
俺の言葉に豪快に笑い始める雄大と、それに同調して頷く棗。
そんな二人に、俺は笑い返すことが出来なかった。



