開け放たれたトイレのドアから、明かりが漏れている。
不思議に思い目線を下に向けると…華奢な色白の手と茶色い髪が地面に張り付いていた。
「…結衣!?」
慌てて駆け寄ると、トイレでうつ伏せに横たわる彼女の姿。
「おい、大丈夫か!?」
抱き起こして数回頬を叩いても、何の反応もない。
背中に冷や汗が伝う。
脳裏に過ぎるのは、郷田の事件の日のこと。
繋がれた彼女の手が、力なく離れていく感覚を今でも鮮明に思い出せる。
…あんなこと、二度とあってたまるか。
俺はすぐにスマホを取り出して、震える手で119番を押した。
あの日経験した「彼女を一生失うかもしれない」という恐怖。
眠り続ける彼女を見る度に感じる虚無感。
…もう二度とあんな思いはしたくない。
だからどうか、結衣の体に何も異常がありませんように。



