「あら面白いわね。お父さんに買っていこうかしら。」


「お父さん味覚音痴だから絶対気付かないよ!」


目をくしゃっとさせて無邪気に笑う藤村の姿に見入ってしまった。
あんなに思いっきり笑うんだ。
笑ってるところ、初めて見た。


どくんと、心臓が高鳴った気がした。
かわいい、そう無意識に思っていた。
この日、俺は藤村に2回目のときめきを感じていた。


1度目は新学期のクラス名簿が張り出された時。
名前を見た時、可愛い名前だなと思った。
そして本人を見つけた時。
ピッタリな名前だと思った。
儚くて、可愛くて、春色の彼女に。
俺は惹かれ始めていた。


気付けば目で追いかけていて。
陰で頑張る彼女を放って置けなかった。
だからわざと委員会が同じになるように謀った。


なのにいちばん最初の委員会では風邪を引いてしまって。
いちばん最初の図書当番は気付かなくてひとり藤村に仕事を押し付けてしまった。


彼女の性格を理解していたはずなのに。
引っ込み思案で目立つことが得意じゃない彼女が。
俺に話しかけてくることなんてないことくらい分かっていたはずなのに。


彼女は控えめだ。
自分の意見を伝えるのが苦手で、相手の顔色ばっかり窺っている。
損な生き方ばかりしている。


それでも、周りの事を考えて。
他人優先で動くその優しさに惹かれて。
俺は、藤村の事が好きになっていた。