名付けてくれた親には申し訳ないなあと思う。
名前に似合う顔にならなくて。
嫌いだって思ってることに後ろめたさを感じてしまう。
でも、それでも嫌いなものは嫌いだった。


茅野くんは違った。
彼は、私の不快感を一瞬で拭い去ってくれた。
きっと彼にとってはなんてことのない一言だったんだと思う。


ただ思った事を言ったのか。
お世辞で慰めてくれたのか。
今となっては分からないけれど。
それでも私は彼の一言で救われたんだ。


『___って、すごく綺麗な名前だな。
 藤村に似合う。』


太陽のような笑顔とともに茅野くんはそう言った。
似合うなんて、親以外に生まれて初めて言われた。
お世辞でも、嘘でもなんでも良かった。
似合うと言ってくれたことがただただ嬉しかった。


自分でも単純だと思う。
名前を褒めてくれたくらいで意識しはじめるなんて。


でもきっかけなんてなんでもいい。
このことがきっかけで茅野くんのいいところをたくさん知って。
茅野くん自身に興味を持って。
そして、好きになった。


気付いたら視界にいて。
茅野くんを見つめている自分に気付いた。
目が合いそうになれば慌てて逸らしたし。
新学期のあの日以来、話す事もなかった。