◇◇◇


突然始まった俺と小春の同居生活は、お互いにとって、毎日幸せな時間となっていた。



「じゃあ小春、俺今日も先に出るわ」


「え!今日もですか?
言ってくれれば早く準備したのに」



小春に罪悪感を抱かせないために隠しているが、ここからから仕事場まではかなりの距離があるため、早く出なければいけなかった。



「おまえはあと1時間以上もあるのに俺に合わせてどうすんだよ」

「だって少しでも一緒にいたくて…」


シュンと首を傾けてそう呟く小春。



「いってらっしゃいって見送ってくれるだけで十分だから」


これは俺の本心だった。
「いってらっしゃい」なんて言葉を誰かからもらったことなど一度もなかったからだ。



「じゃあ…いってらっしゃい」

「いってきます、小春。
今日は帰りにケーキ屋行くけどなにがいい?」


「やったあ!
じゃあいちごのショートケーキお願いしてもいいですか?」


「了解。
じゃあ、今度こそ行ってくる」

「はい!いってらっしゃい」



全力で手を振ってくれる小春に手を振り返しながら、俺は仕事部屋へ急いだ。