「来るぞ」

そう言って男の人は私の両手首を掴んで壁に押し付けた。



「早く抵抗しろよ」

耳元で囁かれてハッとし、私は手を振り払うように暴れる


そこへやってきた所長。



「なにしてるんだ!
その女は私のだぞ!」


「残念ながらたった今からこいつは園田組のだ。
園田の頭がこの女を大層気に入ったみたいだからな。悪いが連れて行かせてもらうよ」


園田組と聞いてから、所長は顔色を真っ青にして震え上がっているようだった。

全国的にも有名な暴力団、園田組の名前を出せば知らない人はいないだろう。



あまりの迫力に呆気にとられて嫌がるフリを忘れていた私の右手が少し強く握られハッとする。



「私は園田組には行きません!」


「そういうわけには行かないなあ。
頭が首をながーくしてお待ちなんだ。
痛い目に遭いたくなけばついて来い」

「…っ!」



ーーそのセリフを吐いた彼の目は人を殺せそうなくらい冷たくて、でもなぜかとても寂しそうに見えた。