「彼とはじめて会ったのは、私がセクハラで困っていたときでした。
あのとき私は、賠償金を払わなければいけなくて仕事を辞めるわけにもいかず、かと言って雇ってくれる会社もなく…やっとの思いで働き始められた会社で仕事をしていました。
加害者家族と言われていた私を雇ってくださったことにはすごく感謝しています。
…ですが、職場では加害者家族の私には人権などないかのように扱われ、その…あの日…」
「彼女は夜を共にしないと会社を辞めさせると上司に脅されていました。」
小春が言いにくいであろう言葉を俺が補足する。
「そうなんです…。生活費用もままならなくて、どうしても辞めるわけにはいかず、絶望していたとき、カメラ越しに聞いてくれていた彼が助けに来てくれたんです。
そのあとすぐに彼は、自分がどういう人で、これまでどんな罪を重ねてきたかということも全て話してくれました。
それと同時に私の兄の無実を信じてくれていること、そして冤罪を晴らしたいと思ってくれているという話もしてくれました。
…初めてだったんです。誰かが、私の兄の無実を信じてくれたことが。
それどころか、冤罪を晴らしたいとまで言ってくれて…。
こんなことを言ってしまったら被害に遭われた方々は不快に思われるかもしれませんが、彼は私にとって恩人であり、唯一の拠り所となってくれました。
結果的に、私と距離を置こうとしてくれていた彼を何度も引き止めて今もずっとそばに居るのは、私がわがままを言ったからです。」
一言ずつ言葉を選んで丁寧に話す小春の言葉を記者たちは固唾を飲んで聞いているようだった。
