勇者の城のある一室。


『…失敗したんだ』


電話の向こうの声が、酷く不機嫌な低い声で言う。

電話を持っていない片方の手で自身の髪を撫でていた“彼女”は、それをピタリと止めた。


「…失敗?」

『そう。何回も言わせるなよ。まじ沈んでんだからさ』

「あら、そう。まさかアレン様に怪我させたの?」

『いいや。させられたよ。あいつ怒るとやっぱヤバイね。昔を思い出したよ』


溜め息をつく音が受話器から聞こえた。

“彼女”はクスリと笑うとまた髪を弄る。


「そういえば仲がよかったのよね」

『まぁな。んで本題なんだけど。今日アレンはそっちに戻るんだな?』

「ギルク様とイル様が騒いでたから確実よ」

『んなら、今日の…そうだな、午後6時。そっちに客が来るからさ。入れてやって案内してあげてくれないか?』


その言葉に“彼女”は眉間にシワを寄せた。