教皇はさっきまでとは打って変わって、絶望をその表情に滲ませる。

隣の側近もナティアを知っているらしく、涙目になっていた。


「…じゃあ…、あの子は…。ナティアは、もう、いない…?」


教皇はすがるような目でアレンを見る。

白い瞳に見つめられ、アレンは声も出せずに頷いた。



教皇は静かに泣き出した。

側近と身を寄せ合って。



アレンとマケドニスは無言でその場にただずむ。

去った方がいいのか、いた方がいいのか。

二人にはわからなかった。



「…アレン様」

不意にマケドニスが話しかけてきた。

アレンは横の彼を見上げる。


「…9年前、ですか?」

「…うん。マケドニスはその頃はカルアシティにはいなかったもんな。」

アレンは紅茶を一口飲んで答えた。


「…はい。引っ越して、サリアンシティにいて。何年か経ってまた戻りましたが…、聞いたこともありません。」

「…そりゃそうだろうな。」


ルナス街長は、そのことは隠したがったから。



彼はアレンの前でしかそのことは話さなかった。


それはアレンにとっては有り難かったが。