せわしなく人が行き交う中、大きなビルの、大きなモニター。

流れてきた歌声に、甘いマスクに、みんなが目を奪われる。



それは今日から放送が開始された、ただのCMにすぎないはずなのに、彼の甘く、優しい歌声に魅せられたわたしは、



「っ、」




こんな街中で泣いてしまうほど、一瞬で彼の虜になった。



普段、テレビなんてみないわたし。
急いで彼について調べて、すぐにわかった。

今をトキメク一番旬なスター。
世の女の子をみな虜にしてしまうそんな彼。




「銀、」




雑誌の表紙で甘く微笑む彼の顔をなぞって、わたしは書店を飛び出した。






わたしの世界が彩づいたと同時に、別のところで歯車が廻りだしたことに気づくのはまだ先の話。